スッパ・バルベッタ、そしてヴァルド派の過去
2011年 05月 17日
イタリア、ピエモンテ州最西の地、ペッリチェ渓谷。
ここは今、キリスト教ヴァルド派の拠点の地です。
ここに僕は1998年の夏に足を踏み入れました。
私がこの地でお世話になった、リストランテ・フリッポーは
このヴァルド派の料理を伝え、ミシュランで星を獲る店として
素朴な郷土料理をリストランテの一皿として仕上げていました。
僕はヴァルド派については
当時、そして自店を開いてからも
他のカトリックとは違った宗派であり
遠い過去に、この一派がこの地に隠れ住んでいた事くらいしか知りませんでした。
しかし、自店を開いて3年目くらいだったかな。
今でも、良くお食事に起こし頂いています、
西川杉子先生の著書、「ヴァルド派の谷へ」に出会い
ヴァルド派について、もう少し深く知る事が出来ました。
12世紀、中世のヨーロッパ。
フランスの街、リオンの商人ヴァルデスという人が
清貧を追求した信徒宣教運動を起こしました。(ヴァルド派の発祥)
これがローマ、カトリック教会から煙たがれ
異端とされ、虐殺が起こりました。
ヴァルド派は、それから逃れる為に
オランダ、イギリス、ドイツなどに隠れ住み、(これらの国には彼らの支持者がいて、かくまったり、安全な地に誘導したそうです。)
最後に、イタリアはピエモンテ州の山岳地帯ペッリチェ渓谷に辿り着いた時に
ヴァルド派は解放され、この地に住み着いたそうです。
各街、村に隠れ住んでいながらも、説教を行っていたこの一派。
その巡回説教者は baruba バルバ “ひげ” という名で呼ばれていたそうで、
この一派の郷土料理の一つに
“スッパ・バルベッタ” とい料理があります。
スッパは、この地方の方言で「豚のスープ」
バルベッタは「短いひげ」
を意味します。
グリッシーニに豚のスープを吸わせる素朴なズペッタですが
しっかりとナツメグを効かせ、チーズのコクもプラスされ
こんがりじっくり焼かれたこの料理には、
どこか味の豊かさを感じ
貧しく生きた彼らの、心の豊かさを象徴した料理なのではないかと思います。
*当店のスペシャリテ “子羊の藁包みロースト” もそういった一品です。
過去の上に今があります。
創作料理も今を楽しむには必要ですし
郷土料理を何かと融合させ新しい料理とするのも
もしかしたら、この先の未来に受け継がれてゆく
過去となるのかもしれません。
しかし僕は、郷土料理をそのまま作るのが好きです。
昔から伝わる郷土料理は現代人である私たちに知らない過去を教えてくれます。
これは、その土地の風土がもたらす自然の恵みと共に生きる人々が
伝え続けて来たものであり
これからも、それをとざす事無く
伝えてゆく必要があるものだと思います。
ペッリチェ渓谷に伝わる郷土料理を作り続けていた
リストランテ・フリッポーのワルテルシェフ。
これからも、伝道師たる彼のその心を大切にし
彼に教えて頂いたヴァルド料理を
フィオッキの料理として作り続けてゆきたいと思っています。
「食べる人がいるから、料理がある。」
とにかく、「楽しく美味しく食べる」が一番の大切な事。
料理の背景にある辛い過去を忍ぶ事は、作る人が知っていればそれで良い事であり
ヴァルド派が持っていた清貧から生まれた
豊かな美味しい味をお伝え出来ればと思います。
イタリア料理は、楽しく美味しく食べれる料理です。
(イタリア料理というより、ヴァルド料理ですけど・・・)
ヴァルド料理を楽しんで頂けるよう、スタッフ共々頑張ります!