夏の特別メニュー (3)
2008年 07月 31日
イタリアへ行こうと決意した25才の時、
「山の料理が見たい」という事を強く胸に抱いていました。
イタリアへ行く前は、よく本物の魚を見てみたくなり
休みの日は、寝ずに夜中から海へ行っていました。
時には市場へ、時には貯めたお金で沖釣り船に乗ったりもしました。
その時やってみて思った事は
日本の海で育ち、ちゃんと処理した魚の美味しさです。
ですが、これからの自分に必要なのは、海ではなく
「山の、そして本物のイタリアが見たい」
という当時の私の想いでした。
人は強く自分に問いかければ、物事は必ず!?
そのように進んで行くわけで・・・
実際、寂しくもイタリア最初の修行の地はとんでもないアルプスの山の中!
その後中部イタリアを経験するも、やはり山の料理を求め、
ピエモンテ州のリストランテ・フリッポーへ。
ここでは色んな料理が私の中に入ってきました。
多分それは、ワルテル師が料理だけではなく、その枠を超え、
人としてのあり方も教えてくれたからだと思います。
渓谷がすぐ近くにあったこの地では
「山の料理」の想像を超えた淡水魚料理を多く見る事ができました。
その料理の1つが今回の
“ズッキーニの花に詰めた鱒のパテとザリガニのヴァポーレ” です。

フリッポーの門を開いたのは夏の日の夕暮れでした。
シェフが握手をしてくれた後、「お腹すいてるかい?食べて行きな!」
いきなり、まかないでちょっとホッとした空腹の僕を待っていたのは
リストランテのテーブル。
その時の温前菜がこの料理でした。
心に残り、そしてその後、調理場でこの料理を作る時
いつも「この料理良いなぁ」と思いながら作れる料理でした。
少し住み慣れた中部イタリア、ロマーニャから
見知らぬ地の不安を抱いて辿り着いた
涼しげなまだ明るい北イタリアの晩を思い出すことができる
私の思い出料理のひとつです。
夏の特別メニュー (2)
2008年 07月 24日
今日は “土用の丑の日” 当店でも夏の特別メニューで鰻料理を作っています。
“国産鰻の赤ワイン煮込み 茄子と万願寺唐辛子のビステッカ添え” です。

今回のコースのテーマの “清涼感とスタミナ” のスタミナ料理です。
この季節になると毎年作る料理ですが、
今年は付け合わせに採れたての増田農園野菜の香りもプラスしています。
和食では絞めたてを調理するのがセオリーのこの鰻。
これは鰻の蒲焼きなどでのフワフワの食感の美味しさにあると思います。
しかし私の中のイタリア料理イズムでは2日くらい寝かせてから調理します。
それは赤ワインで煮るにあたって、この方がしっかりと味が出る、
というか味のバランスが良くなるからです。
この料理、魚の赤ワイン煮だからといって、
軽い爽やかな赤ワインが合うとは限りません。
白ワインなら、土壌の表現が前にでたしっかりとしたものや
赤ワインなら、良くある、湿った土の香りを持つ
ボディのあるものなどが良く合います。
“土用の丑の日”に鰻を食す文化の始まりは、
江戸時代に夏に商売がうまくいかなかった食べ物屋が
蘭学者に相談にいったところ、丑の日に『う』のつくものを出せ、
といったところ、店が大変繁盛した事からだそうで
深い意味というより、五行思想に基づく言い伝えからきた事のよう。。。
しかし、この暑い気候の中、濃い味わいのこの魚を習慣上とはいえ食べたくなり、
“土”がキーワードな料理とワインの相性は
単なる“言い伝え”というより“五行思想に基づく食文化”と考えてしまうのは、
宇宙に浮かぶ地球に生きている私だからなのでしょうか・・・。
そんな事を考えていると今夜は寝付けなそう。。。
眠り薬はスコッチと葉巻になりそうです。
夏の特別メニュー(1)
2008年 07月 21日
ギラギラした太陽、正にそんなイメージのこのところの毎日。
当店のメニューも衣替えです。
夏のメニューといってもテーマはさまざまで、今回の当店のテーマは
“清涼感とスタミナ” です。
この二つは必ずしもすべてのお皿に込められている訳ではなく、
お食事の前半で清涼感、後半でスタミナ、
というコースならではの表現をテーマにしています。
今回のコースの前菜は
“ハモの冷菜 ライム風味のそのスープのゼリーと胡瓜のサラダで”です。

イタリア料理を感じる仕立てを試みました。
今回は沼津から届いた活ハモです。

この湿度が高い日本の夏、“スタミナ” と一言にいっても自身の体を
食欲とリンクさせるのは、なかなか難しいものです。
この時期、この作業に欠かせないのが元気野菜です。
増田農園の野菜がいろいろな事を問いかけてきます。
『この野菜でこんな料理はどう?』とか
『そこでこれを合わせてこんな風にキレを与えて全体を繋いでみたら』などなど。
たぶんそれは野菜に力があって、素直な美味しさと個性があるからだと思います。
夏野菜は鮮度が一番!と思い
最近は増田さんの畑に野菜を引き取りにいくことが多いのですが、
今朝、お邪魔した際に痛感した事があります。
それは、“元気な野菜は元気な人が作っている” という事です。
今朝、サンサンと照る陽の下でいつもの様に畑仕事をしている増田さん一家。
そしていつもと変わらぬ素敵な笑顔と情熱な瞳の治子さん。。。
私の仕事は人に元気に、そして幸せになっていただくことです。
私自身が幸せであり、治子さんのように
元気で思いやりのある人間で無ければならないのだと、改めて教えられます。
いつも大変そうな農園のお仕事を見ていると、何か自分に手伝える事は・・・
などと思ってしまいますが、
たぶんそれは増田さんは望まない事だなぁと思い、口にはしません。
その時間があるのなら、私は増田さんの野菜を使いながら、より良い料理を作り、
一人でも多くの人に美味しさを伝えなければいけないのだと思います。
トンボ帰りの畑も
アクセルを強く踏めるバイタリティをまた一つもらった気がしました。
お日様と競争野菜
2008年 07月 08日
迷わず、またまた増田さんの畑に行く事を決めました。
今回はスタッフ皆でお邪魔させていただきました。
以前にも一人ずつ連れて行った事はありますが
できれば皆で・・・と思っていました。
それは・・・
私が、増田農園にお邪魔する度に感じる
自然な環境の姿や香り
それを維持し前を見つめて努力している人のパッション
そして本物の美味しさ
こういった事を伝えたい私の温度はその都度上がっていきます。
私の温度がスタッフに伝わっていない限り、お客様には決して伝わらない。
私はそう思っています。

日頃仕入れに行かず、黙々と仕事をするスタッフには
大げさに言うと、どの食材も同じように見えてくる時がでてきてしまいがちです。
しかし、究極の食材は最高の生産者の元へ行き、
すぐ自分のホームグラウンドのいつものキッチンへ戻り、調理する事だと思います。
私は生産者さんを訪れ、食材を見るといつもそういう気持ちになります。
百聞は一見にしかず、
理想の事柄を感じ、意識するだけで、食材への想いは大きく変わるものです。
スタッフが採れたての美味しさをライブで感じてくれる事に大きな意味を感じます。
そしてもう1つは“人の温かさと純粋さ”
野菜を採り終わった私達に、お母さんの治子さんが、
茹でたてのトウモロコシと枝豆をご馳走してくれました。

採れたての野菜の美味しさ・・・正に “ご馳走” です。
そして治子さんが野菜や、畑についていろいろと話してくださいました。
中でも、
「野菜は、朝露の中で採るのが一番なんです。
お日様が出てクタッとした野菜は水かけても何しても
本当の元気な姿には戻らないんです。
だから私達は毎朝、お日様と競争なんです。
昼前に注文いただいて、すぐに採って箱に詰めても心配で
箱を閉める時はいつも、元気で届いてーって手を合わせちゃうの。」
・・・
皆トウモロコシをかじるのはやめて聞いていたのですが・・・
絶句、です。
増田さんのご家族は野菜一筋、
初心貫徹、野菜を中心にすべてが動いている人だからこそ
こういったお話が聞けるのだと思います。
スタッフと一丸になって私達の料理で、この“お日様と競争野菜”
の美味しさを、イタリア料理の美味しさを伝えていきたい・・・
この温度はきっとスタッフのハートにも伝わったはず。

男4人が乗る蒸し暑い小さな車内は
日に照らされていた車の温度とは、また違ったものに感じました。
野菜と一緒にまた大きな物を頂きました。
今週のメイン料理
2008年 07月 04日
7月中旬から8月中旬まで は“夏の特別メニュー” を行うため
それまでの短いスパンでの、“7月のシェフおまかせコース” のメイン料理です。
6月のコースで使った鳩の生産者である
二宮さんが育てている赤鶏の腿肉を炭火ローストにしています。
最初に雄と雌をシンプルに炭火焼で試し・・・
その次にローストしてソースとあわせました。
私の好みは雌で、ソースありのローストでした。
しかしサマートリュフをかけた時、卵のコクをプラスしたいと思い
ポーチドエッグを添えました。
こうすると何故かローストの焼き香では物足りず、炭火ローストに。。。
すべてがまとまりました!

二宮さんならではの味の濃い肉質と、程よくのった脂の風合いがソースと、
そして炭焼きの香ばしさと卵のコク、それらをトリュフが繋ぎます。
増田農園の野菜などのローストを添え、
ほんのり甘く、そしてシェリーヴィネガーの酸味を
アクセントにしたソースで仕上げます。
鶏肉の味はとにかく鮮度!
この肉の旨味を新鮮なうちに引き出したいと思っています。
蒸し暑さ本番を迎えそうな今、
重くなく、それでいてメイン料理としてのコクと
味わい深さをテーマにして出来上がった一皿であります。
夏野菜を求めて
2008年 07月 01日
とはいっても日曜日で息子さんの進さんはお休みなので
畑を見て回ることはありません。
しかし・・・
昨年味わった、もぎたての茄子の味をお客様に伝えたく、
比較的仕込みの少ない日曜日、朝の調理場をセコンドの右田にまかせ 出動!
雨の中、治子さんが裏の畑を案内してくれました。
しっかり出来上がってきたトウモロコシやズッキーニ。
可愛いラディッシュなどが育っていました。
(カメラの設定を直す事が出来ず、写りが悪く今回は画像はありません...)
帰り道も空いていて、なんとかランチに間に合いました。
採れたての茄子や胡瓜、トウモロコシなど
生で食す、いつもと違った味わいを楽しんで頂けました(^_^)
採れたての茄子はアクが少なく生で美味しく食べられます。
茄子はヴァージンオイルとの相性抜群でカルパッチョとして一皿にしたいくらいです。
今はアミューズのバーニャカウダで生の茄子をお出ししています。

今日はコンポートにして。。。

明日リコッタなどとあわせてクレープで包みカンノーリにします^^
茄子の皮は、かき揚げにしてまかないで食べたのですが、甘くて美味しかった〜。
トウモロコシも、この間迄ヤングコーンだったのがもう立派に育っていました。
中を開けると・・・・・可愛い。

生でかじると甘〜くて本当に美味です。
このトウモロコシも一つの木に一つか二つしか成らせないのに、
虫がつきやすいそう...
それでも増田農園は無農薬。
新鮮なうちに、美味しさのピークのうちに、
安心してお客様に召し上がっていただかなくては・・・
また気合いが入ります!
雨でも元気な治子さん。
今日も笑顔でいろいろなお話をたくさん聞かせていただきました。
当店が黒キャベツをよく使うからと、
今年から種を自家採取してくれていて、沢山植えてくれるそう。
嬉しいです。
帰りがけに治子さんが切ってくださった紫陽花です。

「晴れた日はすぐクタッとしちゃうんだけど、雨だとこんなに元気。
紫陽花は雨が似合いますんね。」
少し重たい雨の朝の気だるい体を一気に起こしてくれました。